【優しい思い出】




月光の淡い光に照らされながら、ひっそりと咲く桃の花。
甘い香りをそよ風に載せて運んでくる。
その香りにも似た実を実らせるには長い月日を重ね行く。
窓辺から見えるうす紅色の花を眺めながら、石川は幼い日の記憶を蘇らせる。

『これを大事に育てたら、夏には美味しい実が出来るから楽しみにしていろよ』

本当に楽しそうに、育てる事の大切さを教えてくれた。
結局一度も実を実らせたところを見る事もなく、志半ばで旅立って行った。

桃の花を見る度に思い出すのは、嬉しそうに笑顔を浮かべていた父親の面影。

淡い月光に照らされながら浮かび上がった花を見つめていると、暖かな父の笑顔を思い出す。

「悠さん、どうかしましたか?」
「別にどうもしないよ」
「そうですか?何だか嬉しそうに思えたんですけど・・・」
「そうか?」
「はい。何か良い事でもありました?」
「いや、ただ桃の花が綺麗だなと思って・・・」

そんな呟きを漏らしながら移動する石川の視線を追いかけ、岩瀬もまた窓から見える桃の花へと視線を移していく。

「そうですね・・・とても幻想的で、子供の頃の暖かい記憶を蘇らせてくれる感じがしますね」
「ああ、辛かった事も忘れるくらい、暖かな思い出が蘇ってくる感じだ」
「そうですね・・・」

言葉に言い表せない程穏やかで、辛さも哀しさも乗り越えた人だけが持つ暖かな笑顔。
いったい誰の事を思い出しているのか判らないけれど、とても大切だった人なのだと云う事だけは判る。

「悠さん、まだ肌寒いですけど散歩でも行きませんか?」
「基寿?」
「此処から眺めているのも良いですけど、近くで見るともっと綺麗だと思いますよ」
「そうだな・・・」

幼かったあの日、実を実らせる時が楽しみだと話しながら暖かく大きな手で手を繋いでくれた父。
あの時と同じように、とても頼もしく、愛おしい人の手を取り歩くのも楽しいかもしれない。
口にした事は何事も遣り遂げる岩瀬だから、父との思い出を語るのも良いだろう。

「じゃあ、行こうか。新たな思い出を作る為に」

石川はそう云いながらその手を差し出し、先程とは違うとても幸せそうな微笑みを見せるのであった。






2008.03.06 UP





【KING'S VALLRY】の未沙樹様より誕生日プレゼントとしていただきました!
ふふふ…こんな素敵過ぎるお話を…ありがとうございますvv
嬉しすぎなのですよぅvv
本当にありがとうございます!